本当に「しかし、同板内の大賞作や話題作が「現実の売れ線」に比べると、どちらかといえば売れていない方に属する作品が多いのは事実」で、「売れてないが話題になる筆頭作家としては、秋山瑞人、川上稔、成田良悟、冲方丁などが挙げられます。」なのか、の検証。
BBSにて情報をくれた方々、ありがとうございました。とりあえず、いただいたものをまとめてみたいと思います。
まずは、なっきーさんに調べていただいた、Amazonとesbooksでの各作家販売ランキングに、抜けていた作家の分を付け加えてみました。
なお、各書店のランキングの計算方法は累計ではなく、一定の短い期間(多分一週間とか、そこら)での販売数に基づいていると思われるので、販売時期によってランキングは大きく左右されます(そのため、冲方丁は代表作と最新作のふたつを掲載しています。志村一矢は『月と貴女に花束を Remains2』の2003/04が最新)。また、川上稔の『終わりのクロニクル』に関しては、
あと、イラストが良いものはやはり強く、新人であろうと古参であろうと、イラストに吸引力が在れば売上がかなり違うそうです。 (※最近では、川上稔さんの「終わりのクロニクル」が、都市シリーズとは比較にならないほど、しかし中堅ですが、売れたそうです)(引用元)*注
というように、イラストパワー込みで考える必要があること。これは、『イリヤの空、UFOの夏』に関しても同様です(『カオスレギオン』はどうなんだろ)。
しかしまあ、ここまで注釈が増えるとデータの信憑性なんてあったもんじゃないですな。それでも目安にはなろうかということで。
ネットで評判になるが売れてない作家
・秋山瑞人 イリヤの空、UFOの夏(4) 2003/08 Amazon 2,985位、esbooks 3,443位
・冲方丁 マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust 2003/07 Amazon 280位、esbooks 698位 カオスレギオン (02) 2003/12 Amazon 2,479位、esbooks 359位
・川上稔 終わりのクロニクル (2下) 2003/11 Amazon 5,258位、esbooks 991位
・成田良悟 バウワウ!―Two Dog Night 2003/12 Amazon 5,578位、esbooks 898位
ネットで評判にならないが売れている作家
・志村一矢 月と貴女に花束を Remains2 2003/04 Amazon 44,576位、esbooks 24,042位
・鈴木鈴 吸血鬼のおしごと 6 2003/11 Amazon 5,242位、esbooks 3,816位
・三上延 ダーク・バイオレッツ (6) 2003/11 Amazon 8,285位、esbooks 37,137位
と、いうわけで結果としては、販売時期のブレをっさっぴいても、ネットで評判の作家のほうが売れ行きがいいように見えます。とくに冲方丁の売れ方はすごいですねー。日本SF大賞をとった『マルドゥック・スクランブル』でのブレイクっぷりがうかがわれます。『カオスレギオン』もそのあおりで売れてる面が大きいかと。
ただし、りしゅーさんがBBSで指摘したように、「アマゾン等のネット書店の売上は、ヲタが多く利用するため一般性はあまりない」という要因はあると思います。Amazonとesbooksの比較だけでも、ありありとその傾向が浮かんできますし。esbooksの明らかなオタ向きっぷりは笑います。
しかしながら、Amazonの数字はそれほど外してないんじゃないかなーとも。『もえたん』やら『週刊わたしのお兄ちゃん』やらがAmazonのランキング上位に食い込んだのは、これらの本が地元の本屋では明らかに入荷しづらいという状況から、確実に手に入れられるネット書店に読者が集まったからじゃないかと思っています。つまり、オタクといえども、いやさオタクだからこそ普通に地元の書店に並びそうな本は、書店に行って買っているのではないかと。あと、オタク、オタク言っていますが、ネットの評判に影響を受けるオタクと、受けないオタクもピンキリなわけで。Amazonの利用者が多数のオタク、それも"ネットの評判に影響を受けるオタク"ばかりではないと思うんですよね。そもそも、ホントの一般人はライトノベルは読みません。それは、ライトノベル本来の顧客である若年層に対しても同様。てなわけで、Amazonの数字はそれなりに信憑性があるラインだと、個人的には思っています。
さて、ネット書店での結果はわかったけれど、一般書店での傾向はどうなっているのでしょうか。こちらの文言が、そもそも一般書店に関しての話題だと思うので、そこに触れなければ意味がありません。そこで、BBSに投稿された、某書店員の書き込みを紹介させていただきます。
Nさんの投稿 秋山はイリヤ、猫に関しては絵師も十分萌えに分類されます。 なのでデータとしては微妙。イリヤはよく売れました。
成田は電撃の営業さんが超イチ押しらしい。FAXでアツく 語っていた。あんまし売れないんだけどねぇ。
志村は別の意味で超話題の作家さんではあるけど。 次もそこそこ売れてくれたらいいや。
そもそも店の実売なんて棚構成と初回配本次第なんだけどな。
まあ、他にも書けないことが多いらしいんで、今度個人的に酒でも飲んで口のすべりを軽やかにしやがれ、って感じです。つーか、志村の別の意味での話題ってどんなんだよ。あと、成田良悟はホントにあまり売れないらしいですな。
まー、しかし、話としては「そもそも店の実売なんて棚構成と初回配本次第なんだけどな」という発言に、全てが集約されているんじゃないでしょうか。そこに顧客層が組み合わさって、書店ごとの売上は千差万別。アキバの書店ならアキバなりの販売戦略による売上の推移があるし、地方の書店も同様です。全ての結果は一部の編集と流通のみが知っているっつーわけで。
では、総合して考えてみましょう。結局のところ「秋山瑞人、川上稔、成田良悟、冲方丁の売上 < 鈴木鈴、三上延、志村一矢、その他イラスト頼り系の売上」と言い切るのは、ちょっと難しいのではないかと。言うならば、「彼らはネットで評判になってる"わり"には売れないし、ネットで評判にならない他の作家が、売れてないとは限らない」ぐらいが落としどころでしょうか。
まあ、そもそも、Books by 麻弥に投稿されたような、ネットでの評判と売上の関係に対する意見は、まったくもって納得できるものです。エロゲなんかはものすごくわかりやすいですよね。ネットで評判になるのは、テキストが優れているものやロリ系の絵柄が主流ですが、実売はオヤジ受けする抜きゲーの方が高いわけですから。
しかし、実売数とネット評判の差異の例示は、少し気になりました。
エロゲも小説も、店頭で中身を判断し辛い商品です(小説の出だし数ページを読んで指針にすることはできますけど)。そこでわかりやすい基準になるのは、見栄えのする装丁と店員のプッシュのわかるディスプレイなわけで。2chのラノベ板の住人やオタ系テキストサイトの巡廻者でない、多数派である一般の購買層を左右し実売数に繋がるのはそこでしょう。
だから、そこでちょっとネットに詳しい店員が、評判になってる作品をプッシュしたりすれば事情は変化しますし、イラストレイターが変わる事で売れ行きが変わる作家もいるでしょう。
もちろん、作品の質を上げることで、地味にリピーターの数を増やしていくことはできるし、口コミでの広がりも重要かと。
そして、これらの販売傾向においては、「ネットで評判にならない作家」に限らず「ネットで評判になる作家」も同様なはずです。
よって、「鈴木鈴、三上延、志村一矢、その他イラスト頼り系などは売れているが話題にならない」はともかく、「秋山瑞人、川上稔、成田良悟、冲方丁は売れてないが話題になる」→「秋山瑞人、川上稔、成田良悟、冲方丁は(話題になるが)売れていない」という図式は、成り立ち辛いではないかと思い、検証してみました。そんなに外してはいないと思うのですが、データが少ないのでなんともですね。もし、他にご意見ある方がおりましたら、ばんばん投稿していただけたらと思います。
まあ、確実にいえることは、今の冲方丁はすげー売れてるってことぐらいでしょうか。
*注:『終わりのクロニクル』と『都市シリーズ』ではイラストレイターが変わってないとの指摘がありました。これはデザイン勝ちかなあ。『終わりのクロニクル』のほうが『都市シリーズ』のものよりもギャルパワーを前面に押し出してる感じで、そういった層が好きな人は手に取りやすそうですから。あと、編集部のプッシュの仕方とか、書店側の戦略とか色々あると思われます。
◆ 追記
ここまで書いてきて、ネット層と一般読者層の好みの差異ということに関して触れていない事に気づきましたが、これってイラストレーターが同じであった場合にのみ、売上の差異で証明できるんですよね。あとはアンケートでもとるしかないんだけど。でも、ネット評判者の代表例の一人、冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』が、どう見ても売れ線の絵でないにも関わらずきちんと売れていることを考えると、そう関係のあることとは思えないんですよね。まー、SF大賞という看板もありますが。
それでも、秋山瑞人の『イリヤの空、UFOの夏』と築地俊彦の『まぶらほ』比較はできるか。とりあえず12月に出た最新刊をチェック。
・築地俊彦 まぶらほ (ふっかつの巻・とうなん) 2003/12 Amazon 437位、esbooks 40位
最新刊バカ売れですよ。すげー。で、イリヤの最終巻と、発売時期が同じ奴を比較してみましょう。
・築地俊彦 まぶらほ―ふっかつの巻・ひがし 2003/09 Amazon 10,319位、esbooks 959位 ・秋山瑞人 イリヤの空、UFOの夏(4) 2003/08 Amazon 2,985位、esbooks 3,443位
Amazonとesbooksで真逆の結果がでてよくわからんことに。ただ、『まぶらほ』の方はアニメパワーもあっての計算になるんで、そこを差し引くと微妙な感じ。
ネット書店のデータの信憑性に関しては前述した通りですが、やはり中身が一般的かそうでないかについては、売上に関してあまり大きな問題ではない気がします。秋山が比較的一般的な作風をしてるとか言っちゃうと、もう前提そのものが破綻しちゃってよくわからんですし。
◆今回のデータとりをしていて
各オンライン書店のオタ利用者の割合が、ものすごく気になったですよ。esbooksはマジでオタクに偏りすぎ。
りしゅーさんが調べた エロ/ヲタマンガの売上ランク
精装追男姐 Amazon:1,223位 ESbooks:99位 ヒキコモリ健康法(通常版) Amazon:62,246位 ESbooks:2630位 キミの名を呼べば Amazon:694位 ESbooks:160位 妄想ダイアリー Amazon:9,646位 ESbooks:146位 FIESTA Amazon:13,111位 ESbooks:896位 今日の5の2 Amazon:94位 ESbooks:59位 苺ましまろ Amazon:5,852位 ESbooks:8599位 School Rumble Amazon 5,704位 ESbooks:1627位 もえたん Amazon:6位 ESbooks:3位
露骨だなあ。
ちなみに俺もesbooks利用者ですよ。セブンイレブンで引き取れば送料無料ってのがすごい大きいもので。でも、esbooksのオタ集合っぷりは、他に理由がある気がします。多分、利用者の数が少なくて、オタク層が浮かび上がってくるという事だと思うんですが。
◆ネットでの評判
と、ひとくくりにしても、2ch、ニュースサイト、書評系サイトと数あるわけで、そこに何人の人が関わっているかも不明。不透明なもんです。ちなみに、俺は2chの評価は一切あてにしない事にしてます。個人的にセンスを信用してる人やサイトからの推薦には、ものすごく影響を受けますけど。 |